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2009. 09. 23  
「悪名高き皇帝たち」ティベリウス、カリグラ、クラウディウスまで了。あとはネロ。さすがに重そうである。

一番意外性が高かったのはカリギュラ(塩野さんの訳ではカリグラ)。私が若い頃に話題になった映画のせいで(未見だけど)、そりゃぁもう悪いイメージがあったわけだけど、実体はかなりおとなしいものであったこと、なにより、マスコット的萌えキャラであったという側面。

まぁ、とりあえずはティベリウスから。
善政か悪政かというなら、圧倒的に善政の人だったと思う。カエサルが切り拓き、アウグストゥスが細部を詰め、ティベリウスが完璧を目指して踏み固めたローマ帝国、という感じである。性格も、どこまでも高貴でクールで実際的。演説の訳を読むと、心震えるほどに威厳高く、格好いい。皇帝として申し分ない人物だったと思う。だがしかし、この人、どうにもこうにもシビアに物事を突き詰めすぎる人でもあったようで、自分自身も追い詰めていった結果、プッツンとなるところがあったようだ。その結果、晩年近くの数年間は特に、「善政なるも悪意あり」といったオモムキ。あまりにギャイギャイと五月蠅い養子の嫁や、言い訳と責任逃ればかりでまともに働かない元老院議員にちゃぶ台をひっくり返し、首都ローマを見捨ててカプリ島に引っ込んでしまうのである。だが、引退はしなかったのだ。風光明媚なカプリに居座ったまま、書簡を送りつけることで政治の実権は握り続けたのである。こんな振る舞いは、拗ねたあげくのイヤガラセにしか私には思えない。まぁ、77才まで生きたことを思えば、ボケが始まっていたのかも知れないが。だがそんな状態でも、政務の内容はあくまで怜悧でまっとうなものだったことを鑑みるに、ボケたというよりは、心の動脈硬化のような状態になったのではなかろうか。平たく言えば、人嫌いの頑固ジジィになっちゃた、ということ。

厳しく財政管理をし、皇帝主催のレジャー提供も無くし、賜金などのバラマキ政策もあまりしなかった治世は、民衆にはすこぶる評判が悪かった。「ドケチ」ということである。だがしかし、衆愚なんてのはいつだって自分たちの都合の良いことしか考えないものなのだ。史上例の無い規模の大国家、その平和と安心を支えるインフラ整備と維持(特に防衛軍備)のためだけにも、どれほどの巨額の金が必要になるか、なんてことを想像もできないからこその衆愚。ティベリウス、あんたはようやった! エライ! けど、やっぱ、皇帝が家出はいかんよウン。

そして、問題のカリギュラ(カリグラ)である。
実はこの名は本名ではない。幼児の頃の綽名なのである。
ローマの兵士が履く靴、「軍靴」をラテン語で「カリガ」と呼ぶ。カリギュラとは「ちっちゃな軍靴」という意味。まだよちよち歩きの赤子のころ、ゲルマン前線に遣わされていた父と共にあった王子のために、兵士たちは軍靴を作ってやり、それを履いて走り回る彼を「我々のカリギュラ」と呼んでマスコットとして愛したのであった。現代日本風に解釈するなら「カリガっち」「カリガたん」「カリぎゅ~」てなところだろう。当然その後に来るのは「萌え~♪」だったに違いない。なにせ、兵士が大規模反乱を起こしたとき、カリギュラの父は妻子の密かな脱出を謀るのだが、それを知った兵士たちが「我々のカリギュラを連れて行かないでくれ! 返してくれ!」と嘆願し、それで反乱が治まってしまったそうなのだ。よほど見目麗しい、愛らしい子だったのだろう。残存する彫像を見る限り、間違いないと思われる。

ティベリウスが死去し、元老院はただちに後継者カリギュラに、ティベリウスが持っていた大権のすべてを即座に与える宣言を出す。何の実績も経験も無いも同然の、25才の若者に。
カエサル・アウグストゥスの名。インペラトール(軍総指揮権)称号。政治家トップであることを示す「第一人者」称号。護民官特権(拒否権)等々。
よくもまぁ、なんの実力も示してない青二才に、ここまでの責任と権利と、ティベリウスが護り蓄財してきた莫大な国庫金を気前よく差し出せたものである。どんだけティベリウスが憎かったのか知らないが、正気の沙汰とも思えない。そしてカリギュラは阿呆ではなかった。自分に授けられたものの意味は判っていたのである。だからこそ、すっかり舞い上がってしまったのだろう。カリギュラが狂気の君主だとしたら、その原因はいい気にさせすぎた周囲の責任に他ならない、と私は思う。

ところでカリギュラはティベリウスの晩年、カプリに呼ばれて側近くで暮らしていた。ティベリウスがどういう人物であったか、なぜかくも嫌われるのか、反面教師としてバッチリ学んだらしいのだ。

そしてカリギュラの治世は、ティベリウス路線の真逆を行くことから始まる。国庫のばらまき。娯楽の提供。減税。民衆を楽しませることが、すなわち幸せにすること、王としてやるべきこと、とでも思ったようなのだ。別に、間違ってはいない。それは、熱狂した民衆の反応が証明してしまった。カリギュラを支持する歓声は、おそらくは人類史上最大規模のものであったろう。若く、美しく、民思いの理想の王。カリギュラの舞い上がりもまた際限が無かった。俺、SUGEEEEEE! もっと! もっと喜ばせよう!
だが、問題は、そのためにどれだけ金がかかろうが気にしない、という姿勢だったのである。
ティベリウスがコツコツ作り出した黒字はたちまちのうちに濫費され、3年と経たずにローマの国庫は火の車となった。阿呆でも無ければ狂ってもいないカリギュラは、ちゃんと金策の必要性に目覚める。
だが、問題は、金策のためにどれだけ金がかかろうが気にしない以下同文。
そして、民に愛されすぎた皇帝は、ほんの僅かでもその愛が減じることに耐えられなかった。人気取りのためのばらまき、ばかばかしいまでに派手なイベントの主催、それらをやめることもできなったのである。
なんだかんだで、カリギュラの高慢と焦りが昂進していくのとは逆に人心は冷えてゆく。増税。社会不安。法改正による民間財産の絞り上げ。濡れ衣同然に追放あるいは殺され、資産を回収されてゆく貴族たち。連日連夜のごとしだった祝祭のも、続きすぎればただの日常。カリギュラはあっという間に飽きられ、疎まれ、憎まれる存在になっていったのである。
そして在位4年足らずで、軍部に暗殺されるのだった。手を下したのは、かつてはるかなゲルマンの地で幼いカリギュラと共にあり、長じて皇帝となったカリギュラの身辺警護の任に当たっていた近衛大隊長であった。
カリギュラの治世には何一つ感心するところなど無いのだが、この最期については、なにかしら心揺さぶられるドラマを感じずにはいられないのだった。
ちっちゃかったカリギュラ。愛されたカリギュラ。
だが過剰な愛は愚かさを産むのみ、と示すかのような。

カリギュラの死後、近衛大隊は直ちに皇帝血縁の男子の1人であるクラウディウスを探し出し、「インペラトール!」とまつりあげ、元老院にクラウディウスを皇帝に推挙させる。軍威が皇帝の人事に関わる、最初の例となった。時にクラウディウス50才。肢体不自由の身を書斎に沈め、歴史の研究と著述のみに生きてきた静かなる人。皇帝になるなどと、政治の表舞台に立つなどと、本人はもちろん、世の誰1人として夢にも思わなかったであろう人物が、ローマ第4代皇帝となったのだった。

愚政の極みだったカリギュラの後を受けた「歴史皇帝」クラウディウスの治世については、長くなりすぎたので先送り。

いや~それにしてもローマ皇帝史が面白すぎる原因の一つに、HQすぎる彫像の存在を是非挙げておきたい。今にも活き活きと動きだし、語り始めるかのような迫真の像の数々。ギリシャ・ローマ文化の水準の高さに深い感謝を。明確なイメージが伝わるからこそ、理解もまた深まる真理。偉大です。





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人生50年、オタク歴40年弱、母親業四半世紀。老眼とボケが迅速に進行中。麗しいロボ執事をはべらせるのが老後の夢。

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