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2009. 09. 27  
カリギュたん暗殺直後に皇帝として擁立されたクラウディウス。50歳。
子供の頃から
「足を引きずり、左右のバランスを欠くため動きが不安定、頭はぐらぐらと揺れ、緊張すれば吃音」
であったらしい。塩野さんの著書には書かれていないが、ネットには「母親からは、人の形をしたばけもの呼ばわりされた」という記述もある。おそらくは、何らかの麻痺を幼い頃から抱えていた人物、ということなのだろう。アウグストゥスの時代から、最高権力者のライバルに成りえる存在の男子は容赦なく殺されるのが当たり前である中、危険視もされず生き延びられたのは「不具」ゆえだったかもしれない。
野心を抱けるはずもない人生、母からすらも疎んじられ、常に余計扱いされたであろう彼が求めた生き方は、歴史の研究に没頭する学者の人生だった。
もはや寿命のあらかたも終わってしまったであろう年齢で、降って湧いたような皇帝擁立。
だが、それまで夢想すらしなかったであろう統治者就任要請に、クラウディウスは決然として応えるのである。
期待をかけられなかったゆえに、余りまくった人生の時間。それを費やして蓄えた知識と教養。
それが、皇帝をやっていくための武器となるのではないか? と思ったのではないだろうか。
元老院においての、最初の所信表明演説は、惨憺たるものになった。緊張のあまり吃音が止まらず、口の端から泡がこぼれる始末。どれほどいたたまれない思いをしたことだろう。
だが、「歴史皇帝」の蓄積された力は伊達ではなかった。
カリギュラの無茶苦茶な運営でズタズタになった財政、インフラを、着実に立て直していくクラウディウス。虚弱な身を押して、なんとブリタニア(イギリス)遠征までし、成功を収めて凱旋する。よりよいローマのための水道工事、港湾建設などの公共事業にも成果を上げる。
そして、さらなる帝国安定のための方策として、属州出身者にも元老院議席を開放しようと努めるのだった。だが、これは、既得権益を守ろうとした元老院そのものの猛反発を喰らう方針でもあった。
そのときのクラウディウスの演説が良いのだ。ティベリウスのような派手さは無い、どこまでも地道な調子で終始するのだが、建国何百年にも渡るローマのあり方を事細かに事例をあげていき、開放と寛容がそもそものローマの有るべき精神なのだ、と結論付けて可決を勝ち取る様は、まさに学者気質の面目躍如というあたりだろう。
それなりに安定をみたクラウディウスの治世は13年持続する。
だが、様々な業績を残しはしたが、それでも人気とは無縁の皇帝であったようだ。大衆はどこまでも容姿の善し悪しにこだわるものであるし、孤独な人生で人脈が無かったから、身近から登用せざるを得なかった家人が解放奴隷の身分でしかなかった、というのは貴族たちの逆鱗に触れたし、何よりの不運は、妻が悪女すぎた、という点だった。
クラウディウスは4度結婚している。最初の妻とは離婚、2度目の妻は早死に、3番目の妻は32歳も年下の少女。
この幼妻のメッサリーナが、「狂乱妃」とでも呼びたくなるような常軌を逸した存在だったのだ。皇帝妃の立場を思うがままに利用してやりたい放題、気に入らない相手は片っ端から追放、あるいは死に追いやる。夫が本能的欲望を満たしてくれなかったからなのかどうなのか、あたり構わずとっかえひっかえの御乱交。娼婦に身をやつして夜な夜な下町を徘徊し客をとっていた、とする説まである。
しまいには、皇帝の不在を良いことに、堂々と他の男と婚礼式まで挙げてしまう。
なんでもかんでも妻の言いなりになって、無茶無体な要請の書類にもなんでもサインしてしまっていたクラウディウスではあったが、さすがにここまでの背信は容認できず、部下を送って情人ともども殺させるしかなかった。

もう女なんぞ一生お断り、という気分にさせられたとしてもおかしくない、鬼女メッサリーナの顛末。
それなのに、クラウディウスは4度目の結婚を拒まなかったのである。そして娶ったのが、なんと自らの姪である(小)アグリッピーナだった。
このアグリッピーナは、様々な意味で特別の存在だった。
やんごとなき血筋ではあった。神聖皇帝アウグストゥスの曾孫。先代皇帝カリギュラの妹。叔父であるクラウディウスの妻になることで、皇帝の妻ともなる。そして、彼女の真の目的は、皇帝の妻になることで、次代皇帝の母になることだったのだ。
それも、クラウディウスとの間に子供を作ることではなく、前の夫との間に出来た自分の連れ子ネロを皇帝にしようという計画だったのである。
クラウディウスとメッサリーナとの間には男子が生まれていた。名はブリタニクス、年齢はネロより4歳若いだけ。クラウディウスと自分との間に男子が産まれるのを待っていたのでは間に合わない。帝位はブリタニクスのものになるだけだろう。
アグリッピーナは、自分が押しかけ女房になるのみならず、ネロを正式に夫の養子にし、さらにブリタニクスの妹・オクタヴィアをネロと結婚させるのだった。これにより、「長男」の地位は見事に息子ネロのものになった。次代の皇帝は息子で決まり。あとは時間が過ぎさえすれば自動的に「国家の母(皇帝を産んだ女性)」になれるはず。
だがしかし。アグリッピーナとは、その程度の称号で満足できる野望の器ではなかったらしいのだ。
彼女が望んだのは、自らの手で国政を動かすこと。思うがままに権力を振るうこと。
そのためには、可能な限り早く息子を帝位に就け、自分が摂政の立場にならねばならなかった。

ネロが17歳の年、皇帝クラウディウス死去。享年64歳。好物だったキノコ料理による食中毒とされるが、妻による毒殺であるとは、当時から囁かれた噂であったらしい。

障害をもって産まれ、母にじゃけんにされ、誰にも重んじられず、軽蔑や嘲笑にもまれながら、黙々と書を読むことでなんとか自分で自分を救って生きていたであろうクラウディウス。なる気も無かった皇帝位にいきなりつかされ、誠心誠意頑張るも重臣たちから反発を買い、妻からは最悪の仕打ちを受け、あっけなく死ぬ。なんと気の毒な、可哀想なクラウディウス。不自由な体に鞭打って、こんなに仕事したのに……と涙してしまった私ではあった。

だが彼は自分を不幸と思っていたのであろうか。辛い人生だと思っていただろうか。
多分、そうではない。
彼の確かな仕事ぶりを見る限り、辛さ苦しさ、イヤイヤさを心に抱えた人間に成し得ることではあるまい、と感じるからだ。
いわば負け犬の人生と呼んでも良い、50年。だがその間に培った力は、立場を与えられて見事に華開いた。今こそ必要とされる自分。そして、何をどうすればよいのかが、ちゃんと見えている自分。
温暖なローマを離れ、海の向こうのブリタニア、冷たい湿気に満ちた島国にまではるばる出向いていったド根性の発露と言い、何かしらに目覚め、一気に生まれ変わったかのような皇帝としての業績は、断じて気の毒がるような性質のものではない、とも思うのだ。

悪女を連続で娶り、しかも言うがままに振り回されていた日常というのも、実のところは、重責によるストレスの発散のために必要な要素だったのではないだろうか。現代日本においても、SM女王様の顧客の多くが、地位の高いエリートや権威ある職に就いている男性であるのだから。仕事の面でも私生活の面でも、それなりの満足を得て逝ったのだと思いたい。



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Comment
いよいよ
 次は、あのネロですねぇ。

日本でも様々、数多く物語の題材となっている人物ですが、
私は、嫌いな人物ではないです。

 歴史的には、恐怖の暴君の評価を受けていますが、それだけではないと思います。ローマの他の皇帝と比べて、圧倒的に周辺の人物(特に母)の個性が強く、人一倍悩み、狂ったためと思える所があるからです。愛に、彷徨した人だったと思います。

 また、欠点が多い分、人間臭さみたいなものが感じられます。物語の題材に良く取り上げられるのは、そういった部分の人気じゃないかと。当時から、きっと、憎めないところのある人だったんじゃないか、と勝手に思っています。

 息子さん二十歳の誕生日、おめでとうございます。息子さんに話された内容、本当に感動しました。確固たる意志もなく年金を払っていない人に読んで聞かせたいと思いましたよ(笑

 それでは、今後も更新楽しみにしています^^


 

 

Re: いよいよ
Mizuneさん>
そーなんですよ、ネロは一筋縄でいかない人物です。感想書くだけでもかなりヘヴィです。それでなくても、なんか最近ドンドン長文化してますし(;´Д`)
ダメなトコロと良いトコロ、極端な感じで、けなして済ませられないし、褒めすぎるのもちょっと、ですねぇ。
私的には、カリギュ~よりも萌えキャラです。でも、ダメ人間なのも鉄板。ああどうしたものやらw
「デブチンじゃ、デブチンじゃ、ネロ様はデブチンじゃ」と唱えて、客観性を取り戻さねば。

今日は年金申請のために、息子と遠くの病院に行ってたのですが、私が主治医と話し込んでいる間に、息子は、検査を泣いて嫌がる女の子を宥めて手を引いて、検査が無事終わるまで手伝っていたそうです。誕生日の説教が身にしみてるんでしょうか。けど、それをわざわざ面談中の私のところに得意満面で報告に来るのはどーなのよ、って感じです(^ω^;)
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星 ゆう輝

Author:星 ゆう輝
人生50年、オタク歴40年弱、母親業四半世紀。老眼とボケが迅速に進行中。麗しいロボ執事をはべらせるのが老後の夢。

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