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2009. 12. 03  
ローマを再び帝国として統合し、遷都を行い、怒濤のキリスト教化を推し進めた大王・コンスタンティヌス。
その後継は、3人の息子をはじめとした、多くの血縁者。
だが、その大半が、新帝都コンスタンティノープルの宮廷にて一気に惨殺されてしまった。
残ったのは、大王直系の3人の息子たちと、その従兄弟である二人の兄弟、ガルスとユリアヌス。
幼きこととて難を逃れ、だが幽閉も同然に僻地に押し込まれたガルスとユリアヌスがゆっくりと成長していく間に、3人兄弟は争い続け、結局次男のコンスタンティウスだけが残った。
単独皇帝として権力を握ったコンスタンティウスのもとで、帝国はますますキリスト教一色に染め上げられていくのだった。

ある程度成長したガルスとユリアヌスの兄弟は、突然皇帝に呼び出される。兄のガルスは副帝として帝国の防衛の分担を担わされるが、弟ユリアヌスは、骨の髄からの学者気質ということもあり、ギリシャ哲学を学ぶための留学を許されるのだった。

幽閉を解かれ、ようやく陽のあたる場所に出られた兄弟だったが、猜疑心が強く暗愚なコンスタンティウスによって、兄ガルスは処刑され、学究の徒でしかなかった24歳のユリアヌスが突然副帝に任命された。
戦闘の経験はおろか、政治も軍事のことも何も知らず、ひたすら静かにギリシャ哲学や文学を学び思索にふけっていただけの青年が、蛮族が我が物顔に暴れまわる広大なオチデント(西方ローマ)、すなわち、ガリア、イスパニア、ブリタニアの平定を任されてしまったのである。

「おお、プラトンよプラトン、哲学の一学徒というのに何たる大仕事!」

ことあるごとにこう譚じながら、自らを鼓舞していたというユリアヌス。遠征地につれていくことを許された供回りの数はわずか4人、それ以外の人間はすべて皇帝のスパイであったという。ほんの僅かな失点でもあれば直ちに通報され、兄のように殺されてしまうことは明白。針のむしろのような状況で、それでもユリアヌスは全力を尽くす。哲学の学徒であるからこその、他者へ対する義務感、責任感、使命感、探究心と思考力。ありとあらゆる力を動員して、政治的改革と軍事的成功を立て続けにおさめていくのだった。
荒廃していたガリアの版図は、ユリアヌスの元で、徐々に秩序と安定を獲得していった。

そこに、皇帝からの非情な命令が届く。ペルシャとの戦争のために、選りすぐりの兵をよこせ、という命令である。その数、およそ1万。たった2万あまりの兵力のみしか与えられていなかったガリア軍にとって、まさに命取りの命令だった。
だが、ユリアヌスは粛々と命に従おうとする。従おうとしなかったのは、兵たちである。ペルシャになど行かぬ、とストライキを起こし、ついに「ユリアヌス・アウグストゥス!」の叫びを上げるのだった。正帝になってくれ、ということである。
ユリアヌスは結局、これを受けた。またしても、内戦必至の状況に追い込まれるローマ。ペルシャとの戦いを放り出し、ユリアヌス討伐にむかうコンスタンティウス。だが、ユリアヌスと彼に心服していたガリア軍の士気は高く、電光石火の行動で、たちまち戦局はユリアヌス側に有利となる。
だが、対決は起きなかった。コンスタンティウスが突然の病に倒れ、死んでしまったからである。
新都コンスタンティノープルに無血入城を果たしたユリアヌスは新しい唯一帝となり、ローマ帝国全土を統べる立場となった。幽閉暮らしから解放されてわずか9年後、29歳の皇帝だった。

だが、哲学青年皇帝・ユリアヌスが首都コンスタンティノープルで目の当たりにしたものは、バカバカしいまでに肥大化した官僚組織が無駄金を喰い続ける統治体制だったのだ。
寒く荒れ果てたガリアの地で、なけなしのリソースを必死で使いこなして帝国版図を保持してきた清貧なユリアヌスにとって、虚飾にまみれた中枢の腐敗は、許せるものではなかった。宦官たちに支払われる金額だけでも、ガリアで血を流して戦い続ける兵士たちすべての俸給を上回る、という現実に激怒するユリアヌス。
かくして、運営の無駄を削ぎ落とし健全化させるための、ユリアヌスの大改革が始まった。
同時に、半世紀の間ローマ皇帝の名のもとで推進されてきたキリスト教の優遇にも大幅な制限がかけられる。制限どころの騒ぎではない。キリスト教徒と教会が享受してきた権利はほぼすべて取り上げられ、昔ながらのギリシャ・ローマ由来の神々、およびありとあらゆる宗教が再び平等に扱われるべく、多くの神殿の再建が開始された。キリスト教会の社会支配が腐敗と肥大に直結している、と判断したユリアヌスは、教育の現場からすらキリスト教の教師を追い出すのであった。子供にキリストの教えを伝えたければ、教会で教えればよろしかろう、ということである。政教分離は当たり前、文教もまた分離されなければならない、という発想だったのだろう。

だが、理想に燃えた若い皇帝の様々な改革は、当然のことながら、既得権益を侵された多くの人々の反発にあう。
半世紀にわたって、キリスト教の天下であったローマなのだ。
唯一神を奉じる宗教にとって、他の神々はすべて異教であり異端であり、糾弾と排斥の対象である。大王コンスタンティヌスは当初こそ「すべての宗教は平等」という形をとったが、その後、親子二代に渡る、徹底的とも言えるキリスト教偏重と、他宗への迫害は激しさを増す一方だったのだ。そこへ、すべてをひっくり返さんとするユリアヌスの改革である。
おそらく、彼は急ぎすぎたのだ。あまりに一時に全てを変えようとして、ひどい軋みを産んでしまったのだ。
だが、若き皇帝はとどまることはしなかった。自分を信じ、理想を信じ、今が間違っていると信じて、時代の流れに抗っていく。大王の血族として生まれながら、様々な苦難苦渋をなめつくした半生。弱体され歪んでゆく社会と、荒れ果てた領土を見、自分の手でそれが回復してゆくのも見た。その経験は、ユリアヌスに揺るがしがたい信念を植えつけていったのだろう。

「私は、キリスト教徒たちの信ずることが現世でも現実化できることを皇帝として実証してみたい。彼らの説く徳と幸福は、公正な統治と、宗教に無関係な福祉事業の推進によって達成できる」

ユリアヌスが書き残した手紙にはこう書かれていたそうである。彼は、帝国が力強く輝いていた頃には、どんな賢人も看破することができなかった一神教の抱える問題点に気づき、それがもたらすであろう荒廃をなんとしてでも食い止めねばならないと、思い決めていたのではなかろうか。


やがて、前帝が放置していたペルシャとの決着をつけねばならない時がやってきた。
だが、もはや戦役はガリア時代のようにはいかなかったのだった。帝国中のキリスト教徒の反感を買っていたユリアヌスは、様々な妨害やサボタージュの嵐に悩まされる。敵はペルシャではなく、すでに身内そのものだったのだ。ローマ、ペルシャ、双方ともに決め手を得られない、悲惨な消耗戦が続き、戦乱の中で槍に貫かれて倒れるユリアヌス。

彼の死ののちローマはたちまちのうちに彼の施した政策のほとんどを放棄し、法令を無効化し、もはやとどまることなく、帝国はキリスト教が支配する中世へ向かって転がりだしていくのである。

キリスト教を押しとどめ、かつてのギリシャ・ローマ的世界に回帰することで大いなる恢復を目指したユリアヌスを、その後の世界はこう呼んだ。「背教者ユリアヌス」と。

だが、もともとユリアヌスはキリスト教の信者でもなんでもなかった。ギリシャ古来の哲学を学び、ローマの何たるかに通じ、崩壊してゆくスピリッツを目の当たりにして、それをなんとか呼び戻そうと試みた人だったのである。背教者、アポスタタという呼び名は、むしろ輝かしい贈り名であるのかもしれない、と塩野さんは結ぶのだった。



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ここだけ、グイン読者だけ向けのお話。
黒太子スカールが、ハンニバルの役割を担っていたように、ヴァラキアのヨナが担わされる運命のロールは、このユリアヌスのそれだったのかも知れません。
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なお、このエントリは、導入したてのGoogle日本語入力システムで書きました。なかなかの使い勝手。




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なるほど:G
大変よく纏まっていて読み安いですな。あっという間に最後まで読んでしまう。

なるほど。先に交わしていた会話が、こういう思慮を通してされていたのだなと、よく理解できました。

グイン>

スカールは私も、ハンニバルとチンギス・ハーンに強く影響されたのではないかなと思ってみてました。

アニメは中々よい出来だったと個人的には思います。二期希望
Re: なるほど:G
無間堂さん>
いや~そんな直球で賞賛されると直球で照れるわw
ユリアヌスは、ズバリ「背教者ユリアヌス」というタイトルの作品で、そのドラマチックな人生があますところなく描かれているそうでして、ローマ通史が終わったら借りに行くつもりです。
マルクス帝のエッセイ集や、ガリア戦記の続編「内乱記」、キケロ選集、他にも色々、ローマ人の物語のおかげで読みたい本がどっさり増えて、当分退屈なんぞと縁は無い! という、結構な人生なのでございます(´ー`)

スカール≠ハンニバルはこのローマ史を読むまで私はまったく知らなかったのですが、チンギス・ハーンもほとんど知識がないので……ハーンの生涯も、フン族アッティラと合わせて是非勉強したいと思ってます。
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星 ゆう輝

Author:星 ゆう輝
人生50年、オタク歴40年弱、母親業四半世紀。老眼とボケが迅速に進行中。麗しいロボ執事をはべらせるのが老後の夢。

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