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2011. 02. 18  
最後のグイン・サーガ新刊「ヒプノスの回廊」。別冊や、DVDパンフなどに書かれた短編を収録した外伝である。
これに収録されている、「アレナ通り十番地の精霊」という話が、私は大好きなのである。

ちょうど、まどか☆マギカにヒートアップ中でもあり、あらためて「魔との契約ネタ」をさらい出して考察しまくってる折でもあったので、この短編の類稀な価値と、栗本さんのクールさをしみじみと再確認する思いだった。


「お前の願いを叶えてやろう」
この言葉から始まる物語を、人間はどれほど量産し続けてきたことだろう。
そしてたいていは、人間の愚かさを示して終わる。
魔の甘い囁き、誘惑に対抗してハッピーエンドで話を締めくくるためには、人間としてのありとあらゆる叡智が絞られねばならないのが常だ。

アレナ通りは、なんの変哲も無い庶民が集い暮らす、ありふれた下町の一つ。そこで「煙とパイプ亭」という居酒屋を営む一家に訪れた、ささやかな一夜の奇跡の物語。

気の良い亭主とマメな母親、跡継ぎの息子には可愛い嫁が居て、夜ごと客で賑わう店。
だが一見円満に見えるこの家庭は、実は戦乱の世に相応しい苦難と嘆きの嵐に何度もさらされてきた。
長男は遠く離れた城塞で戦死した。次男も徴兵に駆り出され、片足を喪った。街が占領された際、亭主は敵軍の略奪と暴行にあい、失明する。行き倒れの青年を助ければ、衛兵の尋問や悪漢の乱入を引き起こされ、一家惨殺一歩手前の災難に巻き込まれる。やがて亭主は年老い、衰弱し、今まさに生涯を終えようとしている傍ら、跡継ぎの次男の新妻は初子の難産に苦悶している。
そんな夜、疲れ果てた次男の元に、精霊がやってくるのである。
そして言うのだ、「なにか願いを叶えてやる」

さぁ、どこまでもありふれた、どこまでも実直な、どこまでも平々凡々たる庶民の代表とも言えるアレナ通り煙とパイプ亭の跡継ぎ次男坊は、はたして精霊になんと応えるのか。


グイン・サーガは巨大な物語である。そこにはありとあらゆる類の英雄、英傑、美姫美公、想像を絶する悪と魔、世界を揺るがす戦乱と陰謀と救済と破滅が詰め込まれている。
破格と非凡と巨大と深遠。圧倒的なまでの非日常のオンパレードの中、1巻からこの最後の外伝にいたるまで、途切れること無くほそぼそと、しかし脈々と挿入される庶民の生き様。それが「煙とパイプ亭」の人々の人生である。
英雄、王者、世を滅ぼさんとする悪魔。そういうものと全くの等価の存在として、とある平凡な一家の運命と因果が語られるということ。私はこの点にこそ、グイン・サーガという作品の稀有を、傑出の意味を見る。グイン・サーガという物語が描きたかったことはなんなのだろうか、という問いへの答えがそこにある、と考える。
英雄、だけを描きたかったのではない。凶々しい魔、だけを描きたかったのでもない。多くの国家の事情が複雑に絡み合う興亡史、だけを描きたかったのでもない。美男美女がおりなす複雑壮大なロマンス、だけでは当然ない。

すべてを。
世界を。

世界、とはなんなのか。何で出来ているのか。それをまるごと作り出し、見渡し、全てを描き尽くす。それこそがグイン・サーガが書かれた目的なのだろうと私は思っている。

だからこそ、英雄と市井の民の存在が等価でならねばならなかった。そうでなければバランスが取れない。世界、では無くなってしまう。光無ければ闇無いように、民無くして王は無いからである。歴史無くして「今」は無い。政治無くして国家は無い。産まれて生きて死ぬからこその人生。すべては複雑に絡み合い、変わり行き、小さなことからも世界全てが変わり得る。だから、世界をまっとうに描くためには、ささやかなこと、小さなこと、そういうことを疎かにしてはならないのである。

小さな居酒屋のうらぶれた部屋で起きたささやかな奇跡。
実直な若者が採った選択とはいかなるものだっただろうか? ちょっと想像して頂きたい。
私は、アレナ通りで下されたこの小さな決断は、フレドリック・ブラウンが提示してみせた「魔界まるごと撲滅契約」と並び立つ、古今無双の叡智の一つだと思うのだった。

願わくば、まどか☆マギカの魔法少女たちが叡智を極めてくれんことを。正義も勇気も自己犠牲も、ましてや愛の名を借りたナニガシかなど、私はもうたくさん、うんざり、食傷の果てに嘔吐寸前なのである。綺麗事なぞ、あらかたは虚飾であり、口先だけなら、言葉だけなら、人間どんなことでも言えるし願うし考える。だが荒々しい現実の前に、そんなハリボテは容易く破られ、所詮は私利私欲でしか人間は行動しないことを曝け出しがちだ。
今こそ、叡智の意味が問われねばならない。
あるいは、賢明の意味を。

あー、続き、早く観てー。


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人生50年、オタク歴40年弱、母親業四半世紀。老眼とボケが迅速に進行中。麗しいロボ執事をはべらせるのが老後の夢。

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